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「先代から受け継ぐもの」 朝日焼 松林俊幸さんにインタビュー

インターン生のジャーウンは朝日焼スタッフである松林俊幸さんへインタビューを行いました。

宇治川を望む朝日焼工房は、16代続く陶芸家が営む陶芸工房兼ギャラリーショップです。今年2023年4月には、同工房では初の初代〜16代の作品を一同に集めた展示会「朝日焼423展」が開催されました。展示会を通して、これまで400年続く伝統がこれまでの家族からいかに大切にされているかが伝わってきました。今回のインタビューで16代当主の弟である松林俊幸(以下、俊幸さん)から、朝日焼は伝統を守り続けながら、作品のスタイルが時代とともにどのように進化していくのかを知りました。朝日焼の事業を統括する俊幸さんは、今回快くおぶぶインターン生からのインタビューに答えてくれました。

ー 陶芸家の家で産まれ、これまでどのようなことを経験してきましたか?

400年の歴史を辿るのは、決して安易な(簡単な)ものではないです。多くの方々から「朝日焼の歴史を担うことは大切な仕事だ」と言っていただき、これからも新たな歴史を創り続けていきたいと励まされています。この仕事を続けるには大変な努力が必要です。私たちはラッキーで運がいいけど、これまではたくさん困難を経験しました。

朝日焼には特徴があり、お客様は『朝日焼』へのイメージを持っています。私たちは長年にわたる朝日焼の伝統と風格を継承しております。朝日焼のやり方は変えたくないし、新しいスタイルも造れない(造るわけにはいかない)です。私たちは祖父や父が陶芸を造る方法を見てきて、常に参考にしてきました。私たちの仕事の一番難しい部分は、朝日焼 “らしさ” をどう残すかということです。

数代前から作られていた茶碗の一部は「朝日焼423展」に出品された

ー 俊幸さんは主にどのようなお仕事をされていますか?

皆さんの想像とは違うかもしれないですが、私のこれまでの人生は全てが朝日焼だけだったわけではないです。私は大学卒業後、東京の会社に数年間勤めていました。数年東京で働いたのち、私は家業を手伝うことを決めました。しかし朝日焼は長兄と指定された人間のみが作ることが許されていますので、そこで私は次兄として、卸売や展示会などの事業関連の企画・統括を監督をすることにしました。

ー 仕事で一番楽しいことは何ですか?

実は朝日焼に入社するまで、急須でお茶を淹れることはあまりしてきませんでしたし、日常的にお茶を飲む機会はあまりありませんでした。東京で生活をしていた時も、ほとんどお茶に触れてきませんでした。今は宇治に戻ってきて、同世代の茶農家や茶商の方からお茶について学んでいます。彼らを通して、日々朝日焼の仕事について学び続けています。

私は誰でもお茶とその魅力を楽しめると思ってます。そして皆様にお茶を楽しんでいただきたくて、その魅力を伝えていきたいと思っています。他の人に自分のお茶や朝日焼に対する情熱を伝えることで自信ができ、朝日焼について更に詳しく説明できることに喜びを感じています。朝日焼に興味のある方と共感できるのはとても楽しいですし、他のスタッフも同じ気持ちだと思います。ここ最近は、もともとお茶や朝日焼き文化に興味のない人に朝日焼の魅力を説明をして興味を持ってもらえることにことに、喜びを感じるようになりました。

インタビュー中、俊幸さんは朝日焼の宝瓶セット(通常は高品質の煎茶を淹れるのに使用される日本の急須)で、おぶぶの八十八夜煎茶を淹れてくれました。

ー 陶芸の仕事に長く携わられていると思いますが、陶芸に対する考え方は何か変わりましたか?

初め私は陶芸は方法論的で科学的、数学的なものだと考えていました。なぜなら釉薬の量、窯での焼成温度、焼成時間は技術的なものだと思っていたからです。でも、陶芸の世界に関わっていくうちに陶芸がどんなに自然と密接に関わっていて、自然と調和しているのかが分かるようになりました。この概念は、神道に遡る日本の「八百万の神」(八百万の神、すなわち無数の神々)の概念と絡み合っています。日本人は米粒であっても、すべてのものに神が宿っていると信じています。茶碗を造るとき、私たちは自然から得た土、作品を焼くために使う木々、窯の火、これらすべての中で自然のすべての要素の中に神の存在に気づきます。そうすることで自然がずっと身近に感じられ、私たちの仕事に自然がどのように関わっているかがわかります。だから常に自分の周りにあるすべてのものに敬意を払って、感謝の気持ちを表します。

朝日焼がこの登り窯を導入して50年、使用回数は丁度100回。登り窯に敬意の表すために、正月三が日に使用されるたびに、祭壇に祈りが捧げられます。

ー 日本の焼き物は様式が豊かです。松林さんや朝日焼の作品の特徴を教えていただけますか

朝日焼がどのようなスタイルなのか説明するのはちょっと難しいです。私の兄でさえ、朝日焼の作り方を先代から明確に教わっていなかったといえます。技術を学んだからといって、朝日焼の見た目や雰囲気を正確に身につけられるわけではないからです。先代の時代の朝日焼の器の見た目や雰囲気を見守るのは私たち後継者の義務だと思います。当主の引き継ぎには正確な、または定められたタイミングはないです。引き継ぎはそれぞれの世代によって異なって、いつ行われるかは誰も知りません。私の兄は朝日焼の理念を理解し、自信を持ってから16代目の当主の称号を引き受けました。

朝日焼の理念は宇治(従来日本のお茶の中心地として知られています)と深い関係があって、お茶とその調和にこだわります。私たちはただ茶器を造るだけではなく、宇治の茶文化と茶の歴史に貢献したいと思っています。茶農家、そしてお茶との寄り添いを大切にしています。

現16代目窯元、松林祐介さんが独特の釉掛けの技法で作り上げたお茶碗

ー 朝日焼には400年の素晴らしい歴史がありますが、朝日焼の伝統を守ることと、作品を通じて自分を表現することのバランスをどのように考えていますか?

私たちの視点は少し違うと思います。一般的に起業した人と私たちとは違った視点を持っているかもしれません。朝日焼の伝統と仕事は何世代にもわたって受け継がれているもので、ある時点での失敗や成功はそんなにたいしたことではないと考えています。大事なのは、私たちが何をするかということです。私たちは、自分たちの仕事をどうやって次の世代に引き継いでいくのかを常に考えています。この作品は私たちの自己表現ではないので、やりたいことを表現するだけの陶芸は私たちの仕事ではないです。だから、自分を表現するということをあまり意識せず、あらゆる世代の栄枯盛衰を積み重ねたものが自分自身の表現につながっていると考えています。

朝日焼の指定された4人の職人のうちの1人、および朝日窯と呼ばれる別のコレクションに取り組む絵付師

ー 16代当主が自分自身を表現したときはいつだと思いますか?

朝日焼らしくないものを作ろうと考えた時、朝日焼のスタイルを守りながらそういうもの造るのは大きな挑戦だと思います。私たちが作品を評価する基準となるのは、朝日焼の伝統(のスタイル)です。今彼がやっている作品がその枠組みのどこに入るのか、伝統からかけ離れているのかを常に意識して仕事をしています。

私たちが作品のデザインを大きく変えても、いかに朝日焼の伝統に立ち返るかを常に意識して陶器づくりをしています。朝日焼は世代交代するたびに変わっていくものなのか?伝統を守りながら変わっていくものなのか?昔ながら、伝統的なスタイルを朝日焼のスタイルとして守り続けたいのかと私たちは自分に問いかけています。

今の私から見ると、先代から受け継がれている伝統が見えてきますが、今歩いている道は自分たちが開いたわけではなくて、先代の挑戦によって作られてきたものだと思います。同じ伝統やスタイルを守ることを意識するのではなく、挑戦を繰り返しながら新しい道を築いていきます。一方で、伝統は守ろうとしても守れないものでもあると思います。長い時間をかけて積み上げてきたものそのものだと思います。

私の祖父や父は、ものづくりの哲学や考え方についてよく話していました。創作には「行き当たりばったり」と「職人精神」という二つの力で作られたものがあると言っていました。職人は100個でも200個のものでも作れるが、手が慣れてくると、ある程度意識しなくてもモノが作れるようになります。きれいな型ができあがる/作れると、ものづくりの考え方、たとえば釉薬のかけ方とか、火の入れ方とか、そういうものが全部つながってきます。意識して造ると、いい朝日焼が作れません。

朝日焼は陶芸道具の製作から修理までを自社で行うことの他、細部までこだわりを持っている。ここにあるのは、より硬めの質感を実現するために自作した筆だ。

ー 先ほどおっしゃった通り、茶器とお茶はとても深い関係にあります。朝日焼では、焼き上げった段階で8割が完成して、使い込むことで残りの2割が完成するという「ナレがくる」という精神をもとに陶器を作られていますが、これについて詳しく教えていただけますか?

私たちは、ただ職人的な器を作っているのではなく、お茶を楽しんでいただく人のために茶器を作っていると考えています。たとえひとつの茶器しか買っていただけなかったとしても、私たちの茶器でお茶を楽しむ喜びを感じていただけたらうれしいです。

ー 日本では茶葉から淹れたお茶を飲む習慣が減り、ペットボトルのお茶(ルーズリーフ)の割合が多くなってきているといますが、今後お茶を楽しんでいただくためにはどうしたらいいと思いますか?

ペットボトルのお茶を飲むのは、近年お茶を飲む一つの選択肢で、一番便利な方法ですよね。ペットボトルのお茶は手軽に飲めるし、手軽に手に入れるから、みんなはペットボトルのお茶からお茶の魅力を感じられていると思います。朝日焼では、お茶は急須とかや茶碗などの茶器で入れるものだとを理解しているから、みなさんに、どうやって茶器でお茶を楽しむのかを伝えるということは、私たちの使命だと思います。それによって、より多くの人にお茶を淹れることを楽しんでいただけるといいなぁと思います。そのために茶器の新しい使い方を考えてもらったり、茶器を使ってもらうきっかけを作ったりしています。例えば、茶室を借りて抹茶の点て方を体験してもらったり、お茶の情報や茶器の使い方をお伝えしたりします。

ー 朝日焼のどんなところをもっと多くの人に知ってもらいたいですか?

私たちは、朝日焼の理念や沿革を他の人に伝えようとしていますけど、それは時々難しいです。でも、理念や沿革こそが私たちの陶器なんですから、それを伝えるためには色々な方法を考える価値はあると思います。私たちはここに来てくださる方とのコミュニケーションを大切にしています。

今回、貴重なお時間や陶芸についての知識を共有してくださった松林俊幸さんや朝日焼のみなさまに深く感謝申し上げます。本当にありがとうございました!

Thank you Miwako-san for translating, Sarah (Intern #146) for taking photographs and Sophie (Intern #147) for joining us on this tea adventure!  

インタビューの間、通訳をしてくれた美和子さん、写真を撮ってくれたサラ(#146)とソフィー( #147)、このお茶のアドベンチャーに参加してくれてありがとう!(2023年5月27日 インタビュー)

朝日焼さんHPはこちらから!

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